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『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』を読んで

 不定期ライター 蟁 依存症の研究は歴史的にも、教育についての随伴物として始められた。親子関係に関する木枯的な心理学的研究と共に発展したといえるだろう。 本書『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』における作者である桜庭一樹氏も依存症の他人との接触、養護によって生ずる心理的幸福感を目的とした言動について論じ、我々読者に提唱したのだろう。 本書主人公である山田なぎさも依存に心理的幸福を見出してしまった人間の一人である。山田なぎさは兄に依存していたのだ。母は仕事で多忙であり、父は他界していた。兄は学校にも行かず引きこもりだったがその姿を現代の貴族だと表現した。更には兄を養う為か義務教育終了後は金銭が欲しいと自衛官を志望する。この行動は兄に向けた自己犠牲の精神をよく具現したといえる。 本書あらすじでは山田なぎさの決断を“弾丸”と表し、自らの唯一の強味かのように描いている。これは強味ともいえるが、心の支えと捉えても相違ないだろう。 教育心理学の研究を行う東京大学教授の江口恵子氏も幼児の依存症の発生の誘因について言及している。「第一的要求の解消と愛情の表現とが絶えずつながって生起していると不随物にすぎなかった愛情が第一的要求の動員刺激と同様の動因刺激になってくる。つまり、第二次的要求が獲得される。(中略)」山田なぎさは過去の兄の愛情により第一的要求の動因刺激を獲得したのだろう。 子供ながらに心の拠り所を求めている姿にどの時代にも満ちる、冷酷な子育て環境に対する悲痛な叫びを彷彿とさせる作品であった。